東京都のオンラインマスタークラス「日本語のタネ」の糸川優です。
今、国語表現法で書いてもらっているのは、人の描写です。優秀作品をみんなで見ながら、優れた描写とはどのようなものかを考えました。
それは、電車の中の熾烈な戦いを描いたものでした。
電車の中の面々は、みな表情がなく、平然と乗り降りをしていますが、実は、その表情の下で、虎視眈々と座席が空くのを狙っているという話です。彼女は、それを「席取り合戦」といい、座っている人を「獲物」、狙っている人を「挑戦者」と呼びます。必ずある駅で降りることがわかっている人の正面に立つための戦いがあり、フェイントをかける人、狙いが外れた人、運よく座席を獲得できた人…。それが毎日繰り返され、彼女自身も「挑戦者」であるわけです。
電車の中、わずかなその時間を共有する人たちの間に繰り広げられるドラマ…。確かに、描写するにふさわしいシーンであることでしょう。
今回の課題である、描写というのは、人の様子(表情、しぐさなど)を観察し、写すことです。あるいは、迷いや苛立ちなどの心情を、「怖い」「イライラする」といった定型の表現を使うことなく、分析して書き写すことです。そこには、あまり解釈を入れずに「写生する」ことによって、臨場感が生まれます。
高校生までの国語教育では書いてこなかったタイプの文章でしょう。
時々、驚くほどのセンスの学生がいます。
生得的なもの?いやいや、おそらく、本を読んできた人なのだろうなあと感じています。