留学生が日本で就職できない理由(1)
それは日本語が就活レベルではないから
目次
・JLPTやEJUには運用能力を試す試験がない
・多くの留学生が日本での就職を希望している
・国際基準であるCEFRでは、仕事で必要な言語能力は最低でもB2とされる
・自分の日本語力の現状を認識して動こう
・結論 今すぐ準備を始めてCEFRB2レベルを目指そう
2024.8.29
東京都のオンラインマスタークラス日本語のタネ代表の糸川優です。
日本の大学に入学したから、日本語は大丈夫だから、次は日本で就職だと漠然と考えている人は多いでしょう。JLPTは、日本語の実力を示す指標とされることが多いため、N1を持っている人は、最高レベルだと感じているかもしれません。けれども、実は、N1合格程度の日本語力では、日本で内定を得ることはできません。
JLPTやEJUには運用能力を試す試験がない
思い出してみてください。JLPTに作文の試験がありましたか。オーラルテスト(口頭試問)がありましたか。大学に入るための試験としては、EJUもありますが、こちらにも話す試験がありません。
このように、問題は、大学入試の指標となることの多い日本語の試験には、話す試験がないことです。大学の面接の際には、聞く・話す力を試されたと思います。「なぜこの大学に入りたいと思ったのですか」「大学に入ったら何をしたいですか」のような問いが多いでしょうか。入試で聞かれる質問はほとんど紋切り型です。だから、日本語学校や進学塾でも、その対策はできるのです。これでは、話す能力が非常に軽視されていると言わざるを得ません。
日本語の教員は、文法が破綻していても、発音がどんなに悪くても、職業柄、学生が何を言いたいのかがわかります。教室は過保護な空間ですね。けれども、普通の日本人は、ましてや、面接官はわかってくれません。就職活動で必要とされる日本語は、読む・聞く能力はもちろんのこととして、書く・話す力もネイティブに準ずる程度に必要とされています。
今は便利なツールがあるから、ESを書くのを生成AIに任せましょうか。だめです。平均的なものを書いて(生成AIに書かせて)ESが通過するほど甘くありません。大勢の中から選ばれようというのですから、平均的であるなら、絶対に選ばれないのです。事実を淡々と書いてもESは通りません。あなたにしか書けない文章が求められています。
面接では、あなたのよさをわかってもらうために過不足のない主張ができますか。言葉を尽くして長く話すことは許されません。簡潔で、適切な表現が選べますか。あなたらしさが表現できるでしょうか。
ただ、大学に通って授業を聞いているだけならば、このような運用能力を養う機会は見つけられません。
入学したばかりで解放感を満喫している1年生にとやかく言いたくないものですが、うかうかしていられないのです。日本で就職したいならば、です。
多くの留学生が日本での就職を希望している
学部の1、2年生のクラスで、尋ねてみると、ほとんどの留学生が卒業後には、日本で就職したいと答えます。ほぼ全員と言っていいでしょう。せっかく母国を離れて海外生活を送っているのです。保護者の監視を逃れて羽を伸ばせるのは楽しいことです。そして、卒業後に外国で仕事する経験は、帰国してから、あなたの価値を高めることになる可能性がありますね。けれども、現実は、統計によると、日本で就職を希望する留学生の半数ほどは諦めて帰国するのです。おそらく、日本の就活の実態を知るようになる頃、だんだん諦めムードになり、4年生になってしまうと、ほとんど時間が残されていませんから、帰国を選ばざるを得なくなるのでしょう。帰国が悪い選択肢なのではありません。日本で就職を希望していながら、みすみす機会を逸してしまうことが残念なのです。
まずは、大学に入学するための日本語のレベルと、就活の日本語のレベルは違うということを覚えておいてください。そしてそれは時間があるうちなら克服できるのだということを知ってほしいのです。
では、仕事をするために必要な日本語力とはどの程度なのでしょうか。
CEFRでは、仕事で求められる言語能力は最低でもB2
CEFR(外国語の学習・教授・評価のためのヨーロッパ言語共通参照枠 Common European Framework of Reference for Languages)という国際的な言語基準があります。外国語の運用能力を示す指標です。
次にあげる表を見てください。
どの言語であっても使える基準であること、そして、「〜ができる(Can do)」という習熟度が指標となっていることがわかると思います。この中で、B2以上が、仕事ができるレベルと言われています。
では次に、日本の文化庁による「CEFR共通参照レベル:自己評価表」を見てみましょう。
自分の日本語力の現状を認識して動こう
あなたの日本語力はどうでしょうか。
例えば、仕事に(最低限)必要なB2レベルを見てください。
B2「話すこと・やりとり」
流暢に自然に会話をすることができ,母語話者と普通にやり取りができる。身近なコンテクストの議論に積極的に参加し,自分の意見を説明し,弁明できる。
B2「話すこと・表現」
自分の興味関心のある分野に関連する限り,幅広い話題について,明瞭で詳細な説明をすることができる。時事問題について,いろいろな可能性の長所,短所を示して自己の見方を説明できる。
「議論に積極的に参加」「弁明」「時事問題について…」と書かれています。できますか?大学に入学を許可された人であっても、これが普通にできる人は多いとは言えないのが現状です。このように見ると、大学入学に求められるのは、日本語に関する知識であって、コミュニケーション能力ではない、それで「寡黙な」学生が多いのです。
そして、悩ましいのは、やはり敬語の問題ですね。失礼がないように、丁寧に話すことはある程度できるかもしれません。けれども、大学内では、人間関係が非常に限定的ですから、人と人の距離を考慮して日本語を使い分ける経験はあまりできないでしょう。学ぶ機会も、使う機会も少ないという問題です。
人と人との距離をはかり、適切な言葉を使い、あるいは人との距離を縮めていくことができるかどうかは、留学生生活の中で、日本社会とどう関わってきたかの結果と言えるでしょう。この、日本社会との関わりと、それによって育てられる日本語力がなければ、就活には手が届かないでしょう。
結論
今の自分の日本語力が足りないと思ったことはないという人が多いのではないでしょうか。また、ゴールはあまりにも遠いと感じた人が多いのではないでしょうか。けれども1、2年生が諦めるのは早すぎます。
言語の習得には時間が必要です。
けれども、時間があるうちなら、未来は変えられるのではないでしょうか。
日本での就活を目指す留学生は、まだ間に合いますから、CEFRのB2レベルを目指して、すぐに準備を始めましょう。